規模の小さい会社の場合役員報酬であっても
製造原価にその一定割合を含めた方が良い場合があります。
一般的に役員は、会社全体の経営を管理・監督する立場にある訳ですから
役員報酬は販売管理費となります。
規模の大きな会社であれば、
社長を含む役員報酬は販売管理費で何ら問題ないでしょう。
しかし、社長が1人で社員が5人のような規模の会社であれば
製造部門にある一定割合携わっている場合も多いのではないでしょうか。
この場合でも税法上は、役員報酬を全額販売管理費として計上できます。
一方で、企業会計には「真実性の原則」と言う規則があります。
真実性の原則によれば企業会計は、
「企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供しなければならない。」
となっています。
これに従えば、役員報酬であっても製造部門に役員が従事する時間があれば
その割合を製造原価に含めることが、企業の真実性の原則に適っていることになります。
さて、問題は税法や企業会計原則がどうであるより、小さな会社の場合は
「役員報酬が費用全体の中で大きな比率を占めている」と言うことなのです。
つまり、役員報酬を製造原価に含めるかどうかで仕掛品の額が変わってきます。
仕掛品計上額が違えば当期利益が変わってきます。
その意味で、自社の現状に即した会計処理をした方が望ましいと思います。
また、役員報酬の一部を製造原価に含めた場合、原価計算の結果が違ってきます。
原価計算結果が違えば、販売価格や受注額が変わってきます。
このことは、現実の企業経営にとって重大な影響を及ぼすことになります。
役員報酬の一部が製造原価に含まれた場合、原価計算がどうなるのか見てみましょう。
(仕掛品を考慮しないで検証しています)

この会社の場合、販売管理費に計上された役員報酬は10,260,000円です。
しかし、役員の仕事のうち50%の時間が製造現場に使われました。
役員報酬の50%=5,130,000円分が販売管理費から製造原価に移動します。
製造原価が大きくなりますから、売上総利益は小さくなりますが
販売管理費が小さくなりますので最終的な経常利益は変わりません。
しかし、これは損益計算書上の結果論に過ぎません。
表の下半分をご覧になってください。
この会社は役員が一年間8400時間の仕事をしました。
そのうちの50%4200時間が製造現場に費やされました。
したがって、
販売管理部門では
総作業時間が4200時間減少し
販売管理費が5,130,000円減少しました。
製造部門では
総作業時間が4200時間増加し
加工高(労務費+経費)が5,130,000円増加しました。
何が変わったのでしょうか。
それぞれの部門の一時間あたり作業単価が変化したのです。
この会社の場合は
製造の1時間あたり平均加工単価が1,487円から1,428円
販管の1時間あたり平均作業単価が1,603円から1,657円
また、販管の割当単価(製造部門1時間あたりいくらの販管費を割当てるか)は
3,613円から2,549円と大きく変化しています。
役員報酬の50%を製造部門に振り替えた結果
原価計算の根拠となる加工単価と販売管理費割当単価が変化したことになります。
では次に原価計算をして見ます。

この会社のある製品の原価計算は
役員報酬の一部を製造原価に含めた場合次のような結果になりました。
役員報酬を全額販売管理費とした場合の総原価は430,453円。
役員報酬の50%を製造原価とした場合の総原価は368,738円。
1時間あたりの加工単価と販売管理費割当単価が変化したしたことで
全く異なる原価計算結果となりました。
原価計算の目的は価格の決定にあります。
そこで、10%の利益を見込んだ場合の販売価格は
役員報酬を全額販売管理費とした場合は478,282円。
役員報酬の50%を製造原価とした場合は409,709円。
(以上の原価計算は朴念仁が推奨している方法で計算しました)
価格の決定は企業の戦略の中でも重要な要素です。
役員報酬を製造原価に含める、含めないで全く違う価格になるので
役員報酬の処理は税法などの問題ではなく、実は販売戦略の問題だったのです。
結論は、役員が一定割合製造現場に従事している場合は
役員報酬の1部を製造原価に含めた方が望ましい。
と言うことになります。
朴念仁の「経営管理ツール予算実績管理と原価計算」のプログラムでも
決算書では役員報酬が全額販売管理費に計上されていても
役員製造従事割合を入力するだけで、原価計算用の予算損益計算書が作成され
現実に即した加工単価を求めるようになっています。
できるならば税理士さんと相談するなどして、
何らかの方法で自社の現状にふさわしい真実の損益計算書を作成し
それを根拠に、合理的な原価計算が実行できるように検討して欲しいと思います。
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で社長さんの会社の儲けの理由を明らかにしましょう。